遺言サポート|相続人ではない亡夫側の甥に全ての遺産を遺贈する遺言と、死後事務委任契約を作成したケース

状況

A(85歳)さんは、3年ほど前に夫を亡くされた女性です。亡夫の方の相続についても当事務所にお任せ頂いたという経緯で、このたび、再度ご相談を受けました。

Aさんにはお子さんがいらっしゃいません。よって、夫亡き後は一人暮らしをされていたようですが、昨年、体調を崩されて病院へ入院した後は、介護施設に入所されていました。

亡夫の葬儀、自分自身の緊急入院、そして介護施設への入所というAさんの一大事において、Aさんに常に寄り添って支えたのは、亡夫側の甥Bでした。

Aさんのご相談は、次のような内容でした。

「もし自分が死んだら、私の相続人は、実家の甥姪になる。でも、今の私を支えてくれているのは、Bなので、感謝の意味を込めてBへすべての遺産が渡るような遺言がしたい。Bには大変申し訳ないが、私と亡夫の葬儀やお墓のこともBにお願いしたい。」

司法書士の提案&お手伝い

そこで、さっそく公正証書遺言にするべく文案を作成しました。Aさんが仰るとおりの遺言内容、それにAさんの気持ちを付言にしました。

公証役場へ持ち込む前にAさんの意思を確認するために読み上げると、Aさんは「私の気持ちはその通りで相違ないです。でも、Bはこの遺言私の願いを引き受けてくれるでしょうか?」となお不安が拭えないようでした。

司法書士は、Aさんから人生の重大な相談を受けた者として、Aさんが心から安心できるようにして差し上げたい、それにはどうしたらいいのか?と考えました。

そこで、Aさんに対して「Bさんにご自分の気持ちを伝えてみませんか?」と提案しました。入所施設で何度か会ったBさんが心からAさんの今後を考えているのを知っていたからです。
Aさんの了解を得て、AさんとBさんが会する機会を調整し、Bさんの前でAさんの遺言の原稿を読み上げました。それを聞いたBは「もちろん、大丈夫。亡くなった後のことはしっかり引き受けますよ」とAさんに向かって答えてくれました。

心配事がひとつ消えて、Aさんの表情が安らかになったのを見て、司法書士は公正証書遺言作成へと事務を進めました。

結果

「私のすべての財産はBに遺贈する」という内容の公正証書遺言を作成しました。Aさんの法定相続人である甥姪には遺留分もないので、今回作成された遺言は、遺言内で定めた遺言執行者によってその通り実現されるでしょう。

遺言は、Aさんの単独行為です。よって、Bさん側の気持ちはどうあれ、遺言自体が完成させることができます。しかし、Aさんが求めていたのは、遺言という法律文書ではなく、「安心」なのだと感じました。

また、「自分の亡くなった後の事務一切をBに任せたい」というAさんの言葉から、Aさんを委託者、Bさんを受託者とする「死後の事務委任契約」と締結することを提案したところ、A・B共にぜひそうしたいとの意向で作成することになりました。